産業オートメーションにおける通信プロトコルは、製造プロセスの効率化、安全性向上、およびコスト削減に不可欠な要素です。Modbus、CC-Link、EtherCATは、この分野で広く利用されている主要なプロトコルですが、それぞれに独自の歴史、開発者、および特性があります。また、セキュリティの観点からの考慮も重要です。本稿ではこれらのプロトコルの詳細に加え、他の一部プロトコルについても軽く触れます。
Modbusプロトコル
歴史とメーカー:
Modbusは1979年にModicon社(現在のSchneider Electric)によって開発されました。当初はModiconのPLC同士の通信のために設計されたシリアル通信プロトコルですが、そのシンプルさから多くのメーカーに採用され、現在では産業オートメーションにおけるデファクトスタンダードの一つとなっています。
セキュリティと脆弱性:
Modbusはもともとセキュリティを考慮せずに設計されたため、認証機能がなく、データの暗号化もサポートしていません。このため、不正アクセスやデータの改ざんといったセキュリティ上の脅威に対して脆弱です。Modbusを安全に利用するためには、VPNなどの外部セキュリティ対策と組み合わせる必要があります。
CC-Linkプロトコル
歴史とメーカー:
CC-Linkは1999年に三菱電機によって開発されました。CC-Linkはアジアを中心に広く採用され、特に日本の製造業界で重要な役割を果たしています。CC-Linkファミリーには、CC-Link IE(Industrial Ethernet)などの高速イーサネットベースの通信規格も含まれます。
セキュリティと脆弱性:
CC-Linkもまた、セキュリティ機能が基本設計に含まれていないため、ネットワークの分離やファイアウォールによる保護が推奨されます。最近では、セキュリティ強化のための追加機能やプラクティスが提供され始めています。
EtherCATプロトコル
歴史とメーカー:
EtherCATは2003年にドイツのBeckhoff Automationによって開発されました。EtherCATはその高速性とリアルタイム性能により、世界中で広く採用されています。特に、複雑なオートメーションシステムやロボット制御に適しています。
セキュリティと脆弱性:
EtherCATも、ネットワーク上でのデータの暗号化や認証メカニズムをサポートしていないため、セキュリティ面での懸念が存在します。ネットワークの分離や暗号化通信を提供するVPNの使用などにより、セキュリティリスクを軽減する必要があります。
その他のプロトコル
- PROFINET:Siemens AGによって開発された産業用イーサネット通信プロトコル。高いリアルタイム性と柔軟性を備えています。
- CANopen: 汎用のシリアルバスシステムで、特に自動車業界での使用が知られていますが、産業オートメーションでも利用されています。
- DeviceNet: Rockwell Automationによって開発された、産業用デバイス間の通信プロトコル。CAN(Controller Area Network)に基づいています。
セキュリティに対応したプロトコル
セキュリティに対応したプロトコルはあるにはありますが、用途が限られていたり、対応していない端末があったりと、課題はあります。以下はセキュリティに対応したプロトコルです。
OPC UA (Open Platform Communications Unified Architecture)
OPC UAは、産業オートメーションのための通信プロトコルとして開発された、セキュリティ機能を組み込んだ最先端の規格です。機械、システム、ネットワーク間のデータ交換を可能にし、プラットフォーム独立性と拡張性を提供します。OPC UAは、メッセージの暗号化、署名、そして認証により、データの機密性、完全性、および信頼性を保証します。
MQTT (Message Queuing Telemetry Transport)
MQTTは、軽量なメッセージングプロトコルで、特にリモートデバイス間の通信に適しています。セキュリティ面では、TLS/SSLによるメッセージの暗号化をサポートしており、認証機能を組み込むことができます。これにより、データの機密性と完全性を保ちつつ、低帯域幅でも効率的な通信が可能です。
DNP3 Secure Authentication
DNP3は、特に電力および水管理システムで広く使用されている通信プロトコルです。Secure Authenticationバージョンは、メッセージの認証機能を提供し、不正なコマンドの送信を防ぎます。これにより、システムの操作に対する信頼性が大幅に向上します。
IEC 62443
IEC 62443は、産業通信ネットワークのセキュリティに関する国際標準であり、具体的なプロトコルではないものの、セキュリティに対応したシステム設計、運用、保守に関するガイドラインを提供します。この標準は、産業オートメーションシステム全体のセキュリティレベルを向上させるためのフレームワークを定義しています。
まとめ
産業オートメーションにおける通信プロトコルは、製造プロセスの効率化、安全性の向上、コスト削減に不可欠です。各プロトコルは特定の要件とアプリケーションに適合するよう設計されていますが、セキュリティは共通の懸念事項です。昔からのプロトコルが使われていますので、セキュリティこれらのプロトコルを使用する際は、適切なセキュリティ対策と併せて、その特性と脆弱性を十分に理解することが重要です。